地震や津波の脅威を頭ではわかっていても、「町ごと海に沈んでしまう」というイメージをもって防災に取り組んでいる方は決して多くないと思います。
東日本大震災のニュースをリアルタイムで見ていた私たちでさえ、自分の住んでいる町が津波に飲まれる姿を想像することは簡単ではありません。まして子ども向けに地震や津波の恐ろしさを具体的なイメージをもって伝えることは難しいと言えるでしょう。
実は、17世紀末に実際に地震による液状化と津波で海底に沈んでしまった都市があることをご存じでしょうか?そして、その都市は、ある意味で多くの人に馴染みがあることをご存じでしょうか?
その都市の名前は「ポートロイヤル」。当時、カリブ海の無法地帯として「世界で最も堕落した都市」と言われ、海賊たちの根城になっていた町です。
そう、あの「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」のモデルとなった都市は史実として地震により海に飲まれ、今も海底に眠っているのです。
今回は誰もが知っているカリブの海賊の町が海に沈んだ顛末を通して、地震による液状化と津波の脅威を、簡単に分かりやすく解説します。
世界一の無法地帯!?ポートロイヤルとは
大航海時代以降、カリブ海に位置したポートロイヤルは理想的な港湾都市であり、海上交通の要衝として栄えました。
17世紀当時、北アメリカの一部から、西インド諸島、そして南アメリカの多くの部分を手中におさめたスペインは、まさに新大陸の覇者と言える力を得ていました。
これに対抗するべくイギリスは、スペインから買収したポートロイヤルを海賊たちに開かれた港としました。
ヨーロッパ諸国が大西洋を通って新大陸に進出する上で、カリブ海に位置するポートロイヤル近海を避けて通ることはできませんでした。またスペインが新大陸を牛耳ったことで逃げ出した現地の人たちが海賊行為を働くケースも多く、スペインとの覇権争いを優位に進めたいイギリスは彼らを利用することを考え付いたのです。
これらの、ある国家から他国船への略奪行為を許可された海賊船を「私掠船」、その許可を「私掠免許」と言い、イギリスはカリブの海賊たちにこの私掠免許を与え、ポートロイヤルへの定住を提案したのでした。
海賊たちの根城となった町は、略奪した金品と、それらブラックマネーによる特殊な経済圏に集った人たちにより栄華を誇ったと言われています。一方でその快楽に振り切った異様な姿は、外から見る限り「世界一堕落した都市」とも呼ばれていました。
ポートロイヤルを拠点とした海賊には、「黒ひげ」として有名なエドワード・ティーチや、のちにジャマイカ島副総督になるヘンリー・モーガンなどが含まれ、そうそうたる顔ぶれだったと言います。ヘンリー・モーガンの死後、イギリスの海賊はスペイン領に対する略奪・侵略を禁止され、主役をフランスの海賊に譲ることになります。
「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」のポートロイヤルでは、海賊たちが投獄されたり、処刑されたりするシーンもありました。しかし、実際はカリブの海賊たちはイギリスによって認められた存在だったのですね。
なお、ヘンリー・モーガン副総督は死後ポートロイヤルの墓に葬られ、1692年、ポートロイヤルを襲ったジャマイカ地震によって墓は町ごと海に沈んでしまいます。このジャマイカ地震こそが、今回ご紹介する、ポートロイヤルの3分の2を海底に沈めた災害です。
ジャマイカ地震の発災は、ヘンリー・モーガン死去のわずか4年後でした。カリブの海賊たちの時代の終わりに町ごと幕を下ろすことになったこの地震について、詳しく見ていきたいと思います。
海賊の町を襲った災害、ジャマイカ地震とは
17世紀当時、ブラックマネーによる栄華を誇りつつ「世界一堕落した都市」だった無二の港湾都市ポートロイヤル、この町が「新世界のポンペイ」と呼ばれるに至った災害とは、どのようなものだったのでしょうか。
ジャマイカ地震の発生は1692年6月7日。1959年に実施された海中探査の結果、停止した懐中時計が港から見つかっており、地震の発生はこの時計が停止している午前11時43分頃と言われています。
そもそもジャマイカ島は、カリブ海プレートと北米プレートの境界に位置しています。これらプレートの運動によるひずみから生成された断層の1つにおいて、ジャマイカ地震は発生したとされています。ちょうど、複数のプレート境界に位置している日本で断層型地震が発生するメカニズムと近いものと言えるでしょう。
地震発生のメカニズム、プレート境界や断層型地震(プレート内地震)については、以下の記事で詳しく解説しています。是非、合わせてご覧ください。
町の建物の多くはレンガ造りで崩れやすく、また地盤は軟らかい砂地であったため液状化しやすい土地でした。液状化により、建物も人々も、地中に飲み込まれていったと記録されています。さらに地震発生後、繰り返し襲い来る津波によって、町は完全に海底に沈んでしまいました。
これらは、「水中考古学」と呼ばれる海底探査と、文献資料、生存者の証言により判明したものです。1692年6月7日に港に停泊していたことが記録されているいる船の骨組みが、当時の町中に位置する場所に横たわった状態で発見されたことから、町に激しい津波が押し寄せたものと考えられます。
17世紀当時海上交通の要衝であったポートロイヤルは、四方を海に囲まれ、足元は砂で構成された、非常に災害に弱い都市でもあったのです。
ポートロイヤルを飲み込んだ液状化現象とは?!
ポートロイヤルを襲った災害、都市の3分の2の建物を沈降させた原因の1つとされる液状化現象とはどのようなものなのでしょうか。簡単に解説します。
液状化現象は、地下水が地表から10m以内と浅く、かつ緩い砂地の地盤において、強い地震の揺れが発生した際に起きやすいと言われています。
緩い砂地では、砂の粒の間が水で満たされています。普段は砂粒同士が接触しているので、互いの摩擦で支えあっていられますが、これを強く揺らした際に砂が崩れ、間に水が入ってくることで泥水のような状態になります。揺れが収まったあと、崩れた砂粒は改めて少し低い位置で落ち着き、地下水は「噴砂」「噴水」という形で吹き出します。
アイスコーヒーのグラスに入った氷をストローでかき回した際に、氷が「カラン」と少し下がり、コーヒーの水面が上がるイメージに近いと思ってください。
これが液状化現象のメカニズムです。新潟地震でアパートが大きく傾いたほか、東日本大震災でも埋立地のエリアなどでは深刻な被害に繋がっていました。
足元が緩い砂で、かつ海に囲まれたポートロイヤルは、この液状化現象の恰好の餌食だったのでしょう。さらに現代日本では給排水設備の損害や橋の倒壊のほか、マンションなど住居が重く大きくなっていることで、被害はより大きくなりやすいと考えられます。
液状化による被害は、17世紀の海賊たちだけでなく、自分たちにも起きる可能性があることをよく認識して備える必要がありますね。
カリブの海賊に学ぶ液状化の教訓!
「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」を切り口にした地震と液状化の教訓はいかがだったでしょうか。
これは決して「昔だから起きてしまった悲劇」ではありません。液状化は現代日本でも大きな被害を生むことのある災害です。
液状化の備えとして、地盤を意識して住む場所を選ぶ、家の建て方を工夫するなどの方法がありますが、いずれも大がかりな話になってしまいます。
今住んでいる家でそのまま取れる対策としては、ハザードマップで自分の住んでいる地域のリスクを把握する、ジャパンホームシールド株式会社の提供する「地盤サポートマップ」などのツールを活用するなどの方法があります。
●ジャパンホームシールド株式会社 地盤サポートマップ |
https://supportmap.jp/ |
また、実際に液状化で被害が発生した場合、地震による液状化であれば、地震保険で補償できるケースもあります。
地震発生時に合わせて起きる津波や液状化。海賊たちの町の教訓をいかして、対策に取り組んでいきましょう。